24: 774RR 2006/03/19(日) 01:35:43 ID:qPNBF/xX
3年前のお盆休み
俺は5泊6日の予定で北海道を目指して夜の関越を北上していた
北海道へは学生時代に一度行ったきりそれ以来行っていなかった
次の年整備不良でバイクを廃車してから単車にはまったく乗っていなかったからだ
それから大学を卒業し田舎へ帰り就職してもう一度北海道へ行くためお金を貯めた
買った単車はZZR400
北海道を旅するバイクとしては最高に思えた
3年ぶりの単車、そして4年ぶりの北海道
何度夢見たことか
装備はほとんど新品を買い揃えた
まだ体になじまないライダースと皮パン、コンバットブーツ、ピカピカのヘルメットとキャンピングバック、ZZRも新車で買ったのでまだならしが完全には終わっていなかった
青森に到着する頃には慣らしが終わる計算だった
それまでは全開走行は控えた
関越を終点まで走り村上を過ぎた
暗闇の国道7号線を80kmくらいで一列になって自動車が走る
後ろからその車列を見るとローリングスタート前のF1みたいだった
よくこんな暗い道をかっ飛ばせるなと考えつつ置いていかれない程度のスピードで張り付くように走る
あるとき段差をはねたら背中に「コツン」と何かがあたった
キャンピングバックの上部ネットにヒップバックを入れてそのヒップバックに500mlのペットボトルを入れていたのだがそれが落ちたのだ
「うぉ!やべえ」と思い背中とキャンピングバックの間で挟んで何とか落とさないようにした
赤信号で止まった時になんとか入れなおすことが出来たが、このときは些細なことだと思っていた

http://anago.2ch.net/test/read.cgi/bike/1142255933/
25: 774RR 2006/03/19(日) 01:38:01 ID:qPNBF/xX
途中給油やコンビニ休憩を挟みながら山北、鶴岡、酒田と過ぎ秋田県県境へ
秋田に入るころには夜が明けていた
朝日をバックにした鳥海山の真っ黒なシルエットは本当に雄大だった
それから本庄に到着
国道7号を右折して105号を大曲ICへ
それから秋田道を走り東北道を北上して青森のフェリーターミナルへ行く予定だった
105号はのどかな田園地帯でいかにも東北と言う感じだった
途中デジカメで朝もやに包まれた105号を撮影したいと思いバイクを止めた
前方に麦わらにもんぺといういかにも農家といったいでたちのおばちゃんが自転車を漕いでこちらに向かってきた
反射的にピースをしたら手をブンブン振って答えてくれた
北海道ツーリング初ピースは農家のおばちゃんだった

フェリーの予約した時間は8時、現在時刻は5時だった
ぎりぎりかな?少しペースを上げたほうがいいと思った
というよりは今から思えばむしろあせっていたのだと思う
105号を結構なスピードで飛ばしていた
途中大きなギャップを踏んでしまった
数時間前と同じく背中を「コツン」と何かがあたる感触があった
だけど今回は背中で挟むまもなく道に落ちてしまった
「ああ!まだちょっと午後ティー残っていたのに!まあいいや。拾ってタイムロスするのもアレだしな」
落ちたペットボトルはそのまま見捨てて先を急ぐことにした
今にして思えばバイク乗りの行動としては落第点だと思う
バイクはペットボトルを踏んだだけで転倒する可能性のある乗り物なのだ
だから後に死ぬほど後悔する目に会うのも当然と言えば当然だったのだ
くねくねとした105号を進み大曲ICへ到着した
インターの前には2人組みの学生らしき男たちが「青森」と書かれたスケブを掲げていた
キャンプ道具満載のバイクの俺にどうしろと?

26: 774RR 2006/03/19(日) 01:38:54 ID:qPNBF/xX
高速に乗ると燃料残量計がエンプティ近くを指していたことに気づいた
もうそろそろガスを入れないとまずい
とりあえずPAに入り最寄のガスを入れることの出来るSAはないか調べることにした
バイクを止め、スタンドを降ろしZZRを降りると信じられないものをみた
落としたと思ったペットボトルがヒップバックに入っているのだ!
じゃあさっき落としたのはいったいなんだと思いヒップバックを調べるとなぜか小物入れのチャックが開いていた
ここにはデジカメと小銭入れと財布を入れてある
まさか…と思いヒップバックを引ったくるようにして調べる
「畜生!!何で財布がないんだ!」
思わず叫んでしまった
財布には現金6万円くらいと免許証、クレジットカード、キャッシュカードなど貴重品ばかり入っている
コレを万が一なくしてしまうというのはすなわち旅の終わりを意味する
一刻も早く取り戻さなくてはならない
しかしどうすればいい?ガスの残量はほとんどない
現金は小銭入れに入っている300円程度でたとえガススタに行ってもガスを入れるお金がないし身分を証明する免許証もない
状況は絶望的だった
とにかく動かなければ…
吸いかけのタバコを灰皿に入れ、次のICで降りることにした
だけど降りてからどうすればよいか全然考えがまとまらなかった
横手インターに着いて料金所の職員に理由を話すと向こうもなれた雰囲気で横の建物で手続きするよう指図された
とりあえず受け付けでお金も免許証もないと説明すると奥のまるで取調室のような小部屋に通された
しばらく待つと同年代くらいの背の低い高速機動隊?の警官がやってきた
どこからきたとか旅の目的とかどの辺で財布を落としたのかといった事柄を東北弁で聞いてきた
こんなことを聞いてくる警官に苛立ちを感じた
財布を落としただいたいの場所はわかっている
一刻も早く取りに行きたかった
今行けばあそこの道は交通量が少ないのでかなりの確率で財布を見つけることが出来るだろう
でもどうやって?この警官にお金を借りるのか?
仮に貸してくれたとしても免許証不携帯を見逃してくれるだろうか?
どう考えても無理のように思えた

27: 774RR 2006/03/19(日) 01:40:07 ID:qPNBF/xX
「じゃあ見つかったら連絡するから」
一通り手続きや書類の作成を終え、俺は建物の外でタバコを吸いながらこれからどうするか考えていた
金がない、ガスがない、免許もない、クレカもないとないないづくし
本当にどうしようもなくて心細く感じた
局留めで家族に当面の旅の資金を送ってもらってあとは東北ツーリングに切り替えようかとか考えていると
「あんたが?財布を落としたのは?」
と秋田弁でかなり年配のJHの職員に呼ばれた
「お金貸してあげるがらこっち来い」
地獄に仏とはまさにこのことだ!
「一万あれば群馬まで帰れるだろ」
といって一万円を財布から抜き取ると渡してくれた
あれ?目から涙が
つーか全然止まる気配がないし声なんてうわずっちゃってまともにありがとうって言えないし
まったく見ず知らずの人にこんなに優しくされたのってもしかして生まれて初めてじゃないか?
そんなことを考えていると本当にとめどなく涙が溢れてきた
「免許なくても事故ったり違反したりしなければ何とかなるだろ」
さっきの警官とは大違いな事を言ってくれた
とにかくなんとかコレでガソリンを入れることが出来る
さらに運がよければ財布を見つけることが出来るかもしれない
北海道にいける可能性が見えた
憧れの北海道に行ける!そう考えると一気に元気が出てきた
連絡先を交換し合い、何度もお礼を行って出発することにした
キャンプ道具は速く走るのには邪魔だ
許可を取って駐車場の隅っこに置かせてもらうことにした
バイクに跨りとりあえずインターを出てすぐのガソリンスタンドでガスを満タンにし、またインターに入って大曲ICを目指す
速くもっと速く!まだ慣らしが終わっていないけどそんなことはどうでもいい
一刻も早く財布を見つけるため道を急いだ
何だかんだで財布を落としてから2時間近く経っていた

29: 774RR 2006/03/19(日) 01:42:57 ID:qPNBF/xX
大曲ICを抜けるとさっきのヒッチハイカー二人組みは当然のようにいなかった
そんなことよりも財布を探すのが先だ
落としたあたりを30kmくらいの速度でゆっくりと走る
目を皿のようにしながらアスファルトの上を見ながら走った
…ない
拾われたのか?それとも見逃したのか?
Uターンしてもう一度探す
やっぱりない
もう一度Uターン
ない。コレだけ探しても見つからないということは拾われてしまったのだろうか?
路肩に単車を止め、メットを被ったまま草むらに寝転んだ
あの時止まって拾って置けばこんなことには…いや後悔しても何も始まらない
とりあえず路銀は僅かだけどある
これだけあれば群馬に帰ることも出来るし節約すれば東北ツーリングも出来るかもしれない
それに郵便局もお盆で閉まっていなければだが家族に局留めで送金してもらうことも出来るかも
状況はさっきと違って劇的に改善している
とにかく行動しよう
もう一度高速に乗って先ほど止まったPAで電話帳を調べてクレカの使用を停止する
そして姉貴にお金を落としたこと、もしかしたら届があるかもしれないので一日待ってから群馬に帰ると伝えた
(送金の無心はちょっと出来なかった)
仕事に一区切りついて日陰で一服する
日はいつの間にかずっと高く昇っていた
目の前をキャンプ道具満載のバイクが何台も通り過ぎていく
これから北海道に行くのだろうか?
それとも北海道から帰って来たのだろうか?
俺もあの中の一台になるはずだった
ほんの数時間前までは
なんでこんなことになってしまったのだろう?
そんなことをぼんやり考えていると強烈に眠くなってきた…

30: 774RR 2006/03/19(日) 01:46:21 ID:qPNBF/xX
強烈な日差しが肌をじりじりと焼く痛みで目がさめた
いつの間にか眠っていた
時計を見ると1時を過ぎていた
相変わらず目の前を何台ものバイクが通り過ぎていた
俺も行動しなければならない
キャンプ道具を横手ICに置きっぱなしなのでとりに行かなくてはならない
それからもしかしたら財布が届けられているかも?
そう考えると元気になった
バイクに跨りエンジンを掛ける
横手ICについて高速機動隊の受付の人に財布の連絡はあったかどうか確認したがまだないとの事
がっかりした
とりあえず所轄にファックスも流してみるとのことでお手数掛けますと御礼を言う
やっぱり拾われちゃったのかな~だったら出てこないよな~わざわざ警察に届けてくれる親切な人なんていないよなと考えながらキャンピングバックをリアシートに括りつけていると
「財布見つかったってよ!」
と中年のおっちゃんが叫んで来た

本庄署の警官と電話で聞くと財布を見つけてくれた人は見つけたときは通勤途中で6時まで仕事があるので
それ以降であれば警察署に財布を届けてくれるとの事であった
今は2時くらいなのでまだ充分時間はある
そうと決まれば本庄署に行こう!
パッキングを手早く済ませインターを出る
時間はたっぷりある
高速を使う必要はないので下道で行くことにする
国道107号を本庄方面へ
2時間くらいゆっくり走りながら本庄に着いた
そういえば最後に飯を食ったのは12時間くらい前だった
おなかが空いたので手近のホテルのレストランで夕食を取った

31: 774RR 2006/03/19(日) 01:49:05 ID:qPNBF/xX
6時になったので警察署に行くと銀色の車が入ってくるのが見えた
もしかしてあの人かな?と考えて声を掛けてみるとやはりそうだった
「財布が道に落ちていて中の免許証を見るとバイク乗りじゃないかなって思ってこりゃ絶対届けないといけないと思ったんですよ」
といいながらボロボロになった財布を見せてくれた
タイヤのあとが幾つもついて変わり果てた姿をしているけど間違いなく俺の財布だった
たった13時間ぶりの対面だったがものすごい長い時間離れ離れになっていたような気がした
それからいろいろと書類を書いたり中身を確認したりして面倒な手続きは終了した
だけどお礼に一割支払おうとしたけど頑として受け取ってくれなかった
「そのお礼はいらないから北海道でおいしいものでも食べて」
とか言われたのでまた泣きそうになった
東北の人はやさしすぎる

とにかくいろんなことがあったけどそのあとは予定通り北海道に渡り、宗谷まで行ってお金を貸してくれたJHの職員のT橋さんと
財布を拾ってくれたS木さんにホタテを送った
二人のおかげで忘れられない思い出が出来た
本当にありがとう
二人のご恩は一生忘れません


書きたいことをダラダラ書いたら長くなりすぎた
長文スマソ

32: 774RR 2006/03/19(日) 01:54:43 ID:DHi7YDoH
感動した!!

33: 774RR 2006/03/19(日) 01:56:59 ID:iRCG7s4B
>>31
良かったですよ~。
文章も読みやすいですし。
北海道、上陸できて良かったですね。

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